2012年06月20日

佐野元春〜ロックンロールの教科書

 佐野元春の音楽に出会ったのは、おそらく1980年の春先こと。甲斐よしひろの「サウンドストリート」(NHK-FM)でデビュー曲『アンジェリーナ』を聴いたのが最初だった。
 彼の音楽にのめりこむのは、もう少し先、同じ「サウンドストリート」で、佐野自身がDJを務めるようになってからのことだ。番組を毎週のようにカセットテープに録音して聴いていた。

 バディー・ホリー、リトル・リチャード、エディ・コクラン、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、友部正人、etc。
 佐野元春というアーティストを通して出会った音楽(ロックンロール)が、自分の中にあるざっくりとした音楽の座標軸を形作っていった。10代の時に、こういう出会いがあるといのは、今にして思うと実に幸せなことだ。

 アメリカ東海岸出身のスプリングスティーンは、『No Surrender』で、“学校で習ったどんなことよりも、多くのことを3分間のレコードから学んだ”と歌った。レコードを買うお金なんてほとんどなかったけど、そのことは、東アジアの田舎町に通う高校生にもあてはまった。週に1回のラジオは、生きていく上で必要なさまざまなことに示唆をくれる、まさに“ロックンロールの教科書”だったのだ。

 佐野のラジオを通して知ったアーティストのライブに随分足を運んだ。スプリングスティーンのライブには2003年以来通っている。ボブ・ディランは日本武道館の天井桟敷で、リトル・リチャードはバンクーバーのホールとニューヨークのクラブで聴いた。とうの昔に亡くなったバディ・ホリーのミュージカルはロンドンのウェストエンドで見た。友部正人は毎年沖縄まで来てくれる。そうした音楽体験の一つひとつは、自分自身のエレメントとして確実に積み重なっている。それは、これからもさらに続いていくと思う。

 明日、佐野元春は16年ぶりに沖縄のステージ立つ。何より彼の生のパフォーマンスを見ることができるのが嬉しい! 個人的には5年ごしの約束が果たされるのをすごく、嬉しく思う。
 以下は、佐野のアルバム『COYOTE』が2007年にリリースされた時に、東京の事務所(M's Factory)で行なったインタビューの原稿。2007年6月、琉球新報に掲載された。

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佐野元春
短編映画のサウンドトラックを意識したニューアルバム「COYOTE(コヨーテ)」。

 佐野元春の約三年ぶりのアルバム「COYOTE(コヨーテ)」がリリースされた。日常の生活の中で「食事をしたり散歩をしたりするのと同じように」書かれた十二曲は、円熟と新鮮さを合わせもつ作品に仕上がった。
 六月の週末の午後、東京の事務所に佐野を訪ねた。

 今回のアルバムは、コヨーテと呼ばれる男のロードムービーをイメージして作られたという。佐野が自身の頭の中に描いた短編映画、そのサウンドトラックともいえる作品だ。

「最初に、現代を荒れ地と見立てて、そこをコヨーテという男が往くという景色が頭の中にありました。でもコヨーテは僕ではありません。

 僕は曲を書く時に、自分自身が嬉しいとか悲しいといった感情を入れることはありません。そこはストーリー・テラーに徹した方がいいという僕なりの考えがあります。必ず主人公を設定して、彼あるいは彼女を通して世界や社会を描く。主人公たちに喜怒哀楽を表現してもらって、僕は冷静に観察してスケッチするんです」

 佐野がここまで構築的に映像を意識して作ったアルバムはないという。以前の作品については、多くの場合、聴き手の側が自然に映像化していたようだとも話す。

「常々、僕がソングライティングで心がけているのは、聴いてくれている人がそれぞれの中で、簡単に視覚化できるような作り方です。それは例えば、詩の運び方や言葉の選び方、曲のデザイン。そういう風に視覚的な曲を書くのは、昔からの僕の流儀としてあるんです。今回の『コヨーテ』は、集大成とまでは言いませんが、その一連のアプローチのまとめ的なところがあるかもしれません。

 今回、僕の音楽を聴いてくれた別の誰かが、自分だけの映画をそこで編んでもらう、これは最高にありがたい聴かれ方ですよね」

 例えば、今回収録された「ラジオデイズ」は「悲しきRADIO」、「黄金色の天使」は「ロックンロールナイト」という具合に、かつての代表曲がその背景に存在するような印象を受けた。彼が二十代の頃に描いた主人公たちは、今も音楽の中で生き続けているようだ。

「過去に出てきた歌の主人公たちの変遷は、自然に曲の中に立ち現れてくると思います。八十年代のデビュー当時は僕自身も多感な頃で、少年少女たちの日常の風景をスケッチしていました。それから二十数年、今に至るまで、佐野元春流の長い大河ドラマを描いているかのような気分になる時もあります。『ダウンタウンボーイ』で登場させた少し憂鬱な表情をした少年は、今どうしてるだろうか。もしかしたらこのアルバムのどこかに顔をのぞかせているかもしれません」

 秋にはアルバムを携えてのコンサートツアーに出る予定だ。「ライブこそが現在考えうる限り、最高峰の表現方法と思うことがある」と話す佐野。沖縄での公演はまだ未定だが、「必ず行きたい」と話してくれた。

(取材・文/野田隆司)

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Posted by ryujinoda at 13:16│Comments(0)interview
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