『フルートベール駅で』
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『
フルートベール駅で』という映画をみました。
2008年の大晦日に、サンフランシスコの地下鉄駅で実際に起きた警官による黒人青年オスカー・グラントの射殺事件を描いた物語です。
映画の導入には携帯電話で撮影された実際の現場の様子が使われています。そして事件に至るまでの、オスカーの人生最後の日となった2008年の大晦日が描かれていきます。映し出されるのは、ベイエリアでの日常にあるような風景。彼自身、多くの問題を抱えていますが、少しでも前向きに生きようと小さな努力を続けています。
予告編やフライヤーを見た時点から結末(それも切ない結末)がわかっている映画を見ることは、何だか修行のようにも感じられます。でも、この映画からは、作り手側が絶対的に伝えなければいけないという、強烈な意思が伝わってくるようでした。
センセーショナルな事件の裏側にある、うんざりするような人種差別の壁、何気ない日常の中に潜んでいる悪夢。なかなか思うようにいかないことだらけの日々にあっても、オスカーが明日を少しでもよりよくしていこうとしていた姿勢が、ものすごく伝わってきました。だからこそ、彼が亡くなったあとの周囲の喪失感が大きいわけです。
ブルース・スプリングスティーンは『
American Skin(41shots)』という曲の中で、
「アメリカ人として普通に生きているだけで殺されてしまう」と歌っています。
この曲は1999年にニューヨークで非武装のギニア系移民の男性が、白人警官に41発の弾丸を受けて殺された事件を歌ったものです。翌年のマジソン・スクエア・ガーデンでの公演で、ニューヨークの警官たちがボイコットを呼びかけたことでも話題になりました。
アメリカでは今でもこういう事件が繰り返されています。これほど極端なことはまれだとしても、いろいろな面にレイシズムが潜んでいるという話はたびたび耳にします。それはアフロアメリカンに対してだけではなく、ヒスパニックやもちろんアジア系の人に対してもあります。自由の国アメリカには同じだけの不自由ってやつがあるんだと思います。
『フルートベール駅で』、決して後味のいい映画ではないです。でも、たまにはこういうのもいいかなぁと。
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